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広島高等裁判所 昭和42年(ネ)242号 判決 1973年1月25日

控訴人(附帯被控訴人)

国鉄労働組合

右代表者

鈴木清

右訴訟代理人弁護士

大野正男

外二名

被控訴人

林元政

被控訴人(附帯控訴人)

金子良造

外四七名

右被控訴人(附帯控訴人)ら四九名

訴訟代理人弁護士

中田義正

主文

本件控訴ならびに本件附帯控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の、附帯控訴費用は附帯控訴人(被控訴人)らの、各負担とする。

事実《省略》

理由

一、当事者関係

控訴人が日本国有鉄道の職員によつて結成された法人格を有する単一労働組合であり、被控訴人らがいずれも国鉄広島鉄道管理局管内で勤務する国鉄職員であつてもと控訴人の広島地方本部厚狭支部に所属する組合員であつたことは、当事者間に争いがない。

二、一般組合費について

当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する本件一般組合費の請求は全部正当であると判定した。その理由は、「当審において新たに取調べた証拠によつても、原審の事実認定を動かすことはできない。」と附加するほかは、原判決の理由中該当の記載(原判決七枚目表一一行から同八枚目裏三行まで)のとおりであるから、これを引用する。

(編注、以下引用部分を掲げる)

まず、被告らの組合脱退の時期について判断するに、被告らが別紙第二目録の「脱退年月日」欄記載の日にそれぞれ原告組合に対し組合脱退の届出をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、原告組合の昭和三六年七月一八日以前の規約第二二条には「組合を脱退する者は、その理由を明らかにして組合に申出で、その承認をうける。」との規定があるが、その規定のうち脱退には組合の承認を要する旨の部分は組合からの脱退の自由ひいては他組合への加入の自由を不当に制限するものであつて無効であると解するのが相当であるから、本件被告らはいずれも組合に対する前記各脱退の届出によつて即日組合員の地位を喪失したものと解するのが相当である。

ところで、原告請求の一般組合費(別紙第二目録の(イ)「組合費」欄記載のもの)のうち、被告らの前記各脱退の日以前の分については、被告らが原告に対しその納入義務のあることを自認しているが、脱退した月の分については、脱退した日までの分を日割計算とすべきものか否かにつき争いあるところ、<証拠>によれば、昭和三六年七月一八日以前の組合規約第三九条(現行規約第四二条)第二項には「組合費の月額は大会できめる。」とあり、一般組合費は月単位で定められていると考えられ、格別の慣行のあることも認め難いから、たとえ月の途中で脱退した場合でもその月の組合費は、月額全部を納入すべきものと解するのが相当である。

そうすると、一般組合費については、被告らはそれぞれ原告に対し原告請求どおりその全額を支払わなければならない。(ただし、番号32林元政、同41崎前隆、同52福島邦彦の三名については、原告において一般組合費の請求をしていないので、その支払義務のないことは自明である。)(編注、引用部分おわり)

三、臨時組合費について

当裁判所は、原審裁判所の認容した範囲で、控訴人の本件臨時組合費の請求は理由があり、その余の右請求は理由がないと判定した。その理由は、次の(一)、(二)、(三)のとおり附加訂正するほかは、原判決の理由中該当の記載(原判決八枚目裏五行から同一二枚目表四行まで)のとおりであるから、これを引用する。

(編注、以下本判決の指示する順序に従い引用訂正附加部分を掲げる)

<証拠>によると、原告組合の規約には組合の経費は組合費、寄附金その他であてるが、中央委員会で必要と認めたときは臨時に徴収することができる旨の規定があること、原告組合広島地方本部の規約には地方本部の経費は本部からの交付金、寄附金その他であてるが、地方委員会で必要と認めたときは、本部の承認を得て、臨時に徴収することができる旨の規定があること、右地方本部の厚狭支部規約には支部の経費は地方本部からの交付金その他であてるが、支部委員会で必要と認めたときは、地方本部の承認を得て、臨時に徴収することができる旨の規定があること、以上の事実が認められる。

<証拠>によると、原告組合では前記各規定に基づいて請求原因第三項記載のとおり各種の臨時徴収を決議し、指令したこと(ただし(チ)「無給職員」に関する部分を除く)、また(ハ)「管理所闘争資金」については更らに地方本部の承認を得たことが認められる。

しかし、(チ)「無給職員」カンパについては、<証拠>によると、原告が主張するそれぞれの日に広島地方本部では昭和三三年、三四年、三五年の各年末に無給休職者に対する年末カンパとして組合員一人当り毎年金一〇円ずつ徴収することを決定し、指令指示したことは認められるが、これは、右指令、指示(甲第七号証の一、二、同第一五号証)の内容から明らかなとおり、病気のため無給休職者となつている組合員あるいは未組織労働者で毎年手当の要求さえ不可能な者に対する年末助け合いとして、あくまで各組合員の理解と協力によつて任意に拠出を求めようとしたもの、即ち、いわゆる任意カンパで、組合規約に基づく臨時徴収即ち組合員に納入を義務づけるものではなかつたと認められる。また、この無給職員助け合いカンパのごときものは、その性質上、組合が組合員を説得して任意に提出するようつとめ、組合員がこれに応ずるならいざしらず、被告らのようにこれを肯んじないものに対しては法律上支払を強制すべきものでもない。よつて被告らに(チ)「無給職員」カンパ支払の義務はない。

さて、被告らは(ロ)「年末闘争資金」、(ハ)「管理所闘争資金」、(ニ)「志免カンパ」について、これらは勤務時間内にくい込む職場集会等違法な闘争を目的とするものであるから納入の義務がない旨主張するところ、<証拠>によると、「年末闘争賃金」は昭和三三年の年末手当等諸要求を貫徹するための闘争資金、「管理所闘争資金」は国鉄が経営合理化の一環として設置しようとした管理所構想に対し、合理化による人員整理等を生ぜしめるものとして反対するための闘争資金、「志免カンパ」は国鉄志免鉱業所の民間払い下げが同じく合理化による人員整理等の問題を生ぜしめるとしてこれに反対するための闘争資金であることが認められ、これらの闘争が原告国鉄労組の目的の範囲内であることはいうまでもなく、たゞ前掲証拠の各指令および<証拠>の結果によると、それらの闘争の一方法として組合幹部が勤務時間内の職場集会を企図し、また現にかゝる集会を一部の組合員が行つたなどの事実もうかがわれるところであるが、しかし、たとえ箇々の闘争方法の一部に違法の点があつたとしても、それをもつて直ちに闘争全体が違法ということはできず、これを本件について全審理を通じて判断しても右各闘争そのものが全体的にみて違法ということはできないので被告らには前記(ロ)(ハ)(ニ)の各臨時徴収分を納付すべき義務があるといわねばならない。したがつて、この点に関する被告らの主張は採用できない。(編注、引用部分おわり)

(編注、以下当審における附加部分を掲げる)

「被控訴代理人は、前記各資金および後記『春闘資金』の対象となつた闘争の指令が公労法第一七条に違反する争議行為の指令を内容の一部として含んでいることの故に右闘争の指令自体違法であり、右争議は全体的にも部分的にも違法であり、右指令に基づき被控訴人らが臨時組合費を拠出することは、公労法第一七条第一項後段に違反すると主張する。

なるほど、労働組合の正当性のない争議行為のための費用に充てるために臨時組合費を徴収する決議は、動機の不法性を表示してなされるが故に、公序良俗違反として無効である。更に、労働組合が、労働争議の解決の手段を主として正当性のない争議行為に求めたなどのため、争議費用の大部分が右の正当性のない争議行為の費用で占められていることが明らかであるのに、右の争議全体の費用にあてるために臨時組合費を徴収する決議も、同様に無効であると解してよい。しかし、単に労働争議解決のための争議行為の一部に正当性を欠くものがあるというだけでは、闘争全体を違法視することはできないし、右争議費用にあてるための臨時組合費の徴収決議を無効であるということはできない。また、なるほど、労働組合のなした正当性のない争議行為の指令は、違法であつて組合員を拘束しない。更に、労働組合の闘争の指令が正当性のない争議行為の指令を含み、しかも、組合員に対して、これを重点的に実行することを命じていて、これが実行できないときには正当性のある争議行為の実行を期待しないものと解釈されるときには、たとえ右闘争指令が正当な争議行為の指令を一部含んでいたとしても、全体として公序良俗に違反し無効であると解してよい。しかし単に闘争指令の内容の一部に正当性のない争議行為の指令が含まれているというだけでは、右闘争指令全体が違法であるとか、右闘争費用にあてるための臨時組合費の徴収決議が無効であるということはできない。したがつて、右闘争資金の拠出が公労法第一七条第一項後段に反するとは言うことができないのである。

そして、<証拠>によれば、昭和三三年の年末闘争、本件管理所闘争、志免鉱払下闘争、昭和三六年春季闘争の各指令が、前記各臨時組合費の徴収のほかに、半日ストや勤務時間内の職場集会の実行の日時、場所、参加人員等を大まかに定め、その具体的決定権限を下部機関に与える指令と同時になされていることが認められるが、これら半日ストや勤務時間内の職場集会が直ちに公労法第一七条に違反するものとたやすく言うことができず(最高裁大法廷昭和四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九〇一頁参照)、仮にこの点を積極に解するとしても、なお、前記各闘争の指令は半日ストや時間内職場集会のほかに遵法闘争のごとく前記公労法の規定に直ちに違反すると断定し難い手段や、時間外職場集会などの違法の疑いのない行動をも指令していることは前記各証拠から明らかであり、そして、控訴人組合の前記各闘争の指令の内容を検討しても、これら半日ストや時間内職場集会を主な争議行為とし、或いはスト権奪還のためのみに実行し、または計画した事実は認められず、また、前記闘争の指令が正当性のない争議行為を主に実行することを意図し、これを実行しないときには組合員に正当な争議行為の実行を期待しない程重視していると解釈すべき事情も認められないばかりか、昭和三六年春闘においては控訴人は全く半日ストを実施しないで右闘争を収拾した事実は<証拠>から明らかである。

そうしてみると、前記の各資金の対象となつた闘争の指令が半日ストや時間内職場集会の指令を含んでいるとしても、右臨時組合費の徴収決議が違法無効とは言うことができないものと解されなければならない。

したがつて、この点に関する被控訴人らの主張も採用できない。」(編注、当審における付加部分おわり)

(編注、以下当審訂正部分を掲げる)

「つぎに、(ホ)「炭労資金」、(ヘ)「安保資金」、(ト)「政治意識昂揚資金」について判断する。

<証拠>によれば、控訴人は、労働組合法第二条第五条の規定に適合するものとされた労働組合であつて、昭和三四、三五、三六年ごろ施行されていたその組合規約中では、その目的を「組合員の生活と地位の向上を図ると共に、日本国有鉄道の業務を改善し、民主的国家の興隆に寄与すること」と定め、また、その業務を「労働条件の維持改善に関すること、福利厚生に関すること、教養文化の向上に関すること、他団体との協力に関すること」と定めていたことが認められる。

そうしてみれば、控訴人は、労働組合法第二条に定めるとおり、自主的に組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とすることは言うまでもないが、従たる目的である「民主的国家の興隆への寄与」は、それ自体が直接の目的とされているのではなく、右の主たる目的の実現を通じて計るべき間接の目的とされているものと解するのを相当とする。けだし、労働組合法は日本国憲法の期待する民主的国家の興隆をその理念とするものである一方、民主的国家の興隆の理念のもとに労働者の経済的地位の向上を目指すものであつて、労働組合法に基づいて設立された控訴人の組合規約中の目的の定めも、右の精神を表現したものと解するのを相当とするからである。したがつて、控訴人の組合規約中でその業務とされている「他団体との協力」も、そのこと自体が目的ではなく、右の主たる目的の実現のため必要な範囲での業務を指すものであり、他の団体、特に労働組合の上部団体の指示に盲従することを指すものではないと言わなければならない。

そして、控訴人は、右に説示した目的を遂行するうえで直接間接に必要な行為についてのみ、行為能力ひいては権利能力を有する。そして、右の必要性の有無を判断するに当つては、その行為が労働組合の外部第三者の利害に関するところがなく組合と組合員間の法律関係にしか法的効果を及ぼさない臨時組合費の徴収決議である場合には、いわゆる外形理論によることなく、目的遂行上現実に必要であるか否かの点のみを考慮すべきである。控訴代理人は、労働組合については、その目的による権利能力の制限を特に緩くすべきである旨主張するが、何が法人の目的の範囲内の行為であるかは、広く、労働、経済等の社会状勢の上に立つて、当該法人の存立目的およびこれに対する社会の一般的認識内容などの諸点を検討し、慎重に決すべきであるとは言え、労働組合に限つて目的の範囲を超えたところまで権利能力を認めるべき合理的な根拠を見出すことはできない。

そして、労働組合が、特定の支出にあてるために臨時組合費の徴収を決定したときに、右支出目的が右組合の目的の範囲を超える場合には、たとえ右決定が組合規約の定める手続によつていたとしても、右徴収決議は無効であり、労働組合は組合員に右臨時組合費を請求できない。

以上の見解にしたがつて、順次判断をすすめることとする。

(炭労資金について)

<証拠>によれば、次の各事実が認められる。

昭和三四年ごろ、いわゆるエネルギー革命の進行にともない、石炭産業において炭鉱閉鎖と労働者の大量解雇を中心とする大規模な合理化が行なわれようとしたが、炭労は、これに対抗して、いわゆる独占資本に対する企業整備反対闘争と、政府に対して積極的な燃料政策の実現を迫るいわゆる政策転換闘争を進め、三井三池炭鉱などで強力な闘争を行なつた。総評は、その成否が今後の安保反対闘争および日本の労働運動に多大の影響を与える結果となるとの見解のもとに、炭労の右企業整備反対闘争を支援し、総評において炭労に対し、争議中の炭労組合員の生活費を、五人家族で月額一万円を基準として保障するための資金を援助することを中心に、総評加盟組合の組合員を応援のため三井三池炭鉱の争議現場に派遣するなどの援助を行なつたのであるが、総評は、昭和三四年八月の第一二回大会で、約二〇億円にものぼると言われる右援助の必要資金にあてるため、各加盟組合は所属組合員から炭労支援カンパを臨時徴収し、総評に納付することを決議した。

一方、控訴人においても、その当時、国鉄職員約二、〇〇〇名が就業する国鉄志免鉱業所を民間に払下げようとする国鉄の方針について、右職員が国鉄職員の身分を失いその労働条件の維持改善その他経済的地位の向上が困難になるとの理由で反対し、右鉱業所の売山問題解決の一方策として、炭労と同様、政府に対してエネルギー革命の事態に対応した積極的な燃料政策の立案と実行を要求する闘争を行なつていた。そこで、控訴人は、右鉱業所の売山反対闘争の成功には炭労が行なつている前記政策転換闘争の成功が有益であるとの、また、前記の総評の見解と同じく、炭労の前記企業整備反対闘争の成否が安保反対闘争および労働運動に及ぼす影響が大きいとの見解に立ち、前記の総評の決定にしたがつて、先に認定したとおり本件「炭労資金」の徴収の決議と指令をした。

以上の事実によつて判断するのに、控訴人が炭労の政府に対する政策転換闘争を支援することは、控訴人自体の志免鉱業所売山反対の争議解決に必要な行為と解することはできるが、本件「炭労資金」は、主として、炭労が使用者との間で行なつている企業整備反対の争議を支援するため炭労組合員の争議中の生活補償資金や支援団体の活動費に充てる目的で徴収されたものであつて、政策転換闘争それ自体に直接必要な費用に充てる目的ではなく、仮に右目的を有する部分があつたとしてもそれは極く僅かであつたものと解するのを相当とする。けだし、政策転換闘争に直接要する経費は、右のとおりの生活補償費や活動資金に比べ極めて僅少で足ると解されるからである。

ところで、国鉄志免鉱業所売山の方針は、石炭産業とは異る産業分野に属ししかも私企業とは異る経営理念を有する公共企業体内部における不採算部門の切捨てであると同時に、蒸気機関車の廃止など国鉄企業内の不要陳腐化部門の切捨てを意図するものであるから、同じくエネルギー革命を契機とするとは言え、石炭産業の延命策とも言うべき企業合理化とは異つた経済的動因を有し、両者はおのずから別個の解決を見ることも充分あり得る訳であり、したがつて、一方の問題が労働者に有利に解決したからと言つて他方の問題についても労働者に有利な解決を直接間接にもたらすだけの関連性があるとは解し難い。

そうであるから、本件「炭労資金」の徴収は、組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上と言う控訴人の目的の実現に直接間接に必要とは言えず、その徴収決議は控訴人の目的の範囲を超えるものとして無効であると言わざるを得ないのである。

この点に関し、控訴代理人は、企業間の労働条件の連動性、人員整理の波及効果などを主張するが、一般論としては誠に首肯し得るものがあるけれども、本件に関し具体的な蓋然性の存在を証するに足る証拠はなく、また、控訴代理人は、組合規約上他団体との協力を業務と定めていることを根拠に本件「炭労資金」は控訴人の目的の範囲内であると主張するが、先に説示したとおり右の業務は控訴人の前記目的実現のためのものを指すのであるから、前記判断を左右することはできないし、また、労働者の階級連帯が必要であるからと言つて本件「炭労資金」が控訴人の目的実現に直接関接に必要であるとは解し難い。

(安保資金について)

<証拠>によれば、次の各事実が認められる。

総評は、昭和三五年初頭以降、全国で展開された新安保条約批准反対闘争で重要な一環をにない、控訴人国鉄労組はじめ加盟各単産に多数の刑事、民事上の被処分者を出した。そこで、総評は、同年六月の第一四回臨時大会で、安保闘争の犠牲者救援のため加盟組合の組合員一人当り金五〇円を徴収する旨決議した。

控訴人国鉄労組においても、安保条約は、戦争の原因となり国民・労働者の生存すら危険にさらすのみか、国鉄労働者としては、これに基づき、労働災害を伴い易い駐留米軍の軍用資材輸送が増強され、一般輸送が抑圧されて国鉄企業経営が圧迫されることにより、組合員の労働条件の悪化や経済的地位の低下をもたらすとの理由から、これに反対することを決定した。そして、同年五月、衆議院がその批准案を可決すると、批准阻止の唯一の最後の手段として、岸内閣の退陣と国会解散を求めて、三回にわたり時限ストなどの闘争を行なつた。その結果、公労法第一七条、日本国有鉄道法に違反したとして、国鉄労働組合員のうち、一一名が右闘争の計画最高責任者及び現地の責任者であるとの理由で解雇、二名が管理者に対する違法行為があつたとの理由で免職、一六九名が停職、二七七名が減給懲戒処分を受け、二四名が起訴された。そのため、控訴人は、これらの被処分者がその結果として失つた賃金、減給分、昇給延伸の昇給差額分、起訴による休職中の給与の減少分の補償、解雇や懲戒処分に対する法的救済手続や刑事裁判の費用などに約五億円を要することとなつたが、総評加盟労働組合中でも控訴人は特に多くの被処分者を出したため、前記の総評の決議どおり所属組合員一人当り金五〇円の割合による金員を総評に拠出しても、それ以上の犠牲者救援資金を受けられる関係にあつた。それで、控訴人は、第二〇回定期大会での決議に基づき、総評に拠出するため、同年九月五日、指令第二号をもつて、組合員から一人金五〇円あてを臨時組合費として徴収する旨指令した。

これらの事実に基づいて判断するに、いわゆる安保条約(昭和三五年六月二三日条約第六号日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約、以下新安保条約という)の批准阻止の行為は、国鉄労働者にとつても、国鉄労働者の立場を超えた国民個々の立場からなされた政治活動につきるものと言うべきである。そして、国鉄労組が新安保に反対する理由として挙げる駐留軍輸送の原因である米国軍隊の日本駐留は、新安保条約によつてはじめて生じるものではなく、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(昭和二七年条約第六号、以下旧安保条約という)第一条に基づき既に生じていたものであつて、新安保条約の発効を阻止しても、旧安保条約に基づく駐留を解消できる訳のものではない。新安保条約批准阻止が、駐留米軍輸送の減少、引いては国鉄労働者の労働条件、経済的地位の維持改善や、国鉄労組の副次的目的である日本国有鉄道の業務の改善と関連性を有することを論証するだけの訴訟資料は提出されていないのである。

そうすると、国鉄労組の前記新安保条約批准阻止のストライキなどの行為は、所属組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上という控訴人の主たる目的および右主目的の実現を通じて果たすべき日本国有鉄道の業務の改善、民主的国家の興隆への寄与という控訴人の間接的目的をより十分に達成するための手段として必要な政治活動と言うには程遠く、その目的の範囲内の行為に属するとは到底言うことはできない。

そして、このように、控訴人の組合規約の定める目的から著しく離れた、公労法第一七条日本国有鉄道法第三二条などに違反し、しかもデモなど通常表現の自由として許される範囲を超えた違法な団体行動に、故意に参加したため受けた懲戒または刑事処分によつて、組合員が失つた賃金または昇給分、罰金を補填し、或いはその法的救済手続や刑事訴訟に関する費用を援助することもまた、控訴人の目的の範囲内に属する行為と言うことはできない。けだし、組合目的と著しく離れていて、しかも違法な団体行動を故意に行なつた組合員の救援までも組合の目的の範囲内とすることは、組合の目的の概念の不明確をもたらし、一般組合員の利益を不当に侵害するものといわなければならないからである。そして、控訴人の業務として「他団体との協力」が組合規約中に定められているとしても、前述の控訴人の目的実現のためのそれに限られるのであるから、右判断をゆるがすものではない。

そうであるから、本件「安保資金」の徴収決議は、控訴人の目的の範囲を超えるものとして無効であるといわざるを得ない。

(政治意識昂揚資金について)

<証拠>によれば、次の各事実が認められる。

昭和三五年一一月の総選挙において、控訴人は、控訴人の組合員出身の立候補者一二名の支持を決定したが、その選挙資金に充てるため、右立候補者の所属政党(主として日本社会党)に対し、その人数に応じて、国鉄労働組合政治連盟を通じて寄付をした。控訴人は、右寄付のための資金を調達するため、先に認定のとおり、本件「政治意識昂揚資金」の徴収の決議と指令をした。

しかし、被控訴人らは、控訴人の政党支持の運動方針に対し、支持政党を異にし、かつ、労働組合運動と政治に関する思想上の相違があることから、右指令に従わなかつた。

以上の事実に基づいて判断するのに、組合員において、支持政党を異にするなどこれに応じられない政治思想上の理由があるのに、労働組合が右組合員に対し、衆議院議員選挙の特定の立候補者のための選挙資金の拠出を強制することは、民主主義国家の基本原理である国民の政治的信条の自由(日本国憲法第一九条第二一条)に対する侵害として許されない。したがつて、本件「政治意識昂揚資金」徴収の決議と指令は、右資金を任意に拠出する者に対しては格別、被控訴人らに対しては無効である。したがつて、被控訴人らに対し右資金の支払を求める本件請求部分は理由がない。(編注、当審訂正部分おわり)

(編注、次に引用部分を掲げる)

最後に(リ)「春闘資金」についてみると、<証拠>によると、この資金三〇〇円には昭和三六年のいわゆる春闘として大幅賃上げ要求等の闘争関係資金二七〇円と「炭労資金」の最終分金三〇円とが含まれていることが認められるので、そのうち炭労資金分金三〇円については前記(ホ)「炭労資金」の項記載の理由と同一の理由により納入の義務なきものと認め、残余の春闘分金二七〇円については前記組合決議により納入義務あるものと認める。なお、この春闘資金の納入期限は<証拠>によつて昭和三六年二月末日であると認められる。(編注、引用部分おわり)

(編注、以下当審附加部分を掲げる)

当審において新たに取り調べた証拠によつても、臨時組合費の請求についての原判決理由中の事実認定を動かすことはできない。(編注、当審附加部分おわり)

四以上のとおりであるから、原判決は相当であつて、これに対する本件控訴および本件附帯控訴はいずれも理由がないから棄却すべきであり、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。(松本冬樹 浜田治 野田殷稔)

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